村根コネ、自己啓発家の勉強会会員になる(その2)

こんばんは、村根コネです。

今日は昨日の続きを書いていきます。

 

1.初めての勉強会

さて、僕は満を辞して、人気自己啓発家の勉強会に会員として足を運んだ。

 会場は東京だったので、基本的に参加者は関東近辺の方が多い。

そんな中、ど田舎から参加する人間がいたのだから、僕は少し目立った。

 

自己啓発家の話はすごく勉強になったし、他の参加者も輝いていた。

懇親会では、それぞれが夢を語ったり、今の自分の仕事の目標を語っていた。

 

僕は、夢も仕事の目標もなかったけれど、無理してでっち上げる必要もないなと思って、みなさんの話に耳を傾けていた。

 

僕より年下だけれども、すごく大きな野心を抱いている男の子もいた。

みんなが笑顔で、良い言葉を使って、認め合っている。

 

「やっぱり、僕の選んできた道は間違っていなかったんだ」

 

本当に救われた思いがした。

 

僕は、えも言われぬ満足感を胸に、二次会に向かう人々を背中に、夜行バスで帰路に着いた。

「本当は、もっとみんなと話がしたかったけれど、これからどんどん距離を縮めて行けば良いか」

そんなことを思っていた気がする。

 

2.facebookでの交流

とは、いっても、そんなに頻繁に東京に通うお金もない。

だからfacebook上での交流に重きをおくことにした。

 

できるだけ皆さんの投稿にコメントをしたり、いいねを押したりしていた。

 

最初は、「今日はこんなことをしました」とか「こんな本を読みました」とか「今度セミナーをします」といったような会員の皆さんの記事が、自分のことのように嬉しかった。

 

「いい刺激もらいました!僕も頑張ります!!」

って心からそう思ってコメントをしていた。

 

そんなある日facebookの様相が変わり始めた。

関東近辺のメンバーや関西近辺のメンバーがオフ会を始めたのだ。

 

それも週に1回くらいのペースで平日、休日問わず。

 

「今日はオフ会。みんなで夢を語り合ったよ」とかの投稿が続出した。

気づけば、僕の後から入会した人もその輪の中に入り、 みんなからあだ名で呼ばれ始める。

そして、「今日は約束通り、○○さんの勤務されている美容院に行って来ました〜」とか「○○さんに紹介された本、めちゃくちゃ感動しました〜」というようなオフ会きっかけの投稿が日増しに増えていった。

 

僕はコメントを残すのをやめ、義務感のようにいいねだけを押すようになっていた。

月に1回の東京での勉強会にすら、なかなか参加できない僕にとって、オフ会の乱発は寂しさを大きく煽るものだった。

 

そして、そういったオフ会や月に1回の公式勉強会が回数を重ねてくると、参加者の中からみんなのアイドルのような存在が、ちょこちょこと出現してくる。

 

面白い夢を持っていたり、不器用だけれど目の前の人の笑顔のために突っ走っていたり、そんな人たちが、勉強会においては幹部的な立場になってきていた。

 

僕は、一度参加して以来、実は勉強会にも参加できていなかったが、facebookの投稿を毎日見ていたし、勉強会の様子はyoutubeにもアップされていたから、そんな空気を感じとっていた。

 

そんなある日、僕のfacebookに幹部の一人からメッセージが入っていた。

ここでは、この幹部をAさんとする。

僕は面識がなかったからびっくりした。

だけど、それよりも嬉しかった。

幹部であるAさんが、僕の存在を知ってくれていることが、本当に嬉しかった。

 

メッセージの内容は「今度、先生が新刊を出すので、もし良かったら買いませんか?」というものだった。

言われなくも買う予定であったが、メッセージが来たことが嬉しくて、そしてちょっぴり舐められるのも嫌だったから、僕は「5冊ください!」って返信をした。

 

あげる相手も、売る相手もいなかったけれど、少しでも会員として協力したかったし、幹部の方とも仲良くなりたかったから。

 

そして、数日後、僕は指定されたAさんの口座に5冊分の金額を入金した。

そうすると、facebookにメッセージが帰って来た。

 

「遠藤さん!入金確認しました!!本当にありがとうございます」

 

という内容だった。

 

僕は、「遠藤」という名前ではない。

一文字も被っていない。

 

「きっと色々な方と同時並行でやり取りをしていたんだな。大変だな。こんな些細なこと気にしないでおこう」

ほんの少しだけ違和感を感じながら、きっと違和感を感じる自分はまだまだレベルが低いんだと思い直して、僕は新刊を読み進めた。

 

3.ビッグイベントと感じた違和感

 そして新刊が発売されて間も無く、勉強会のビッグイベントが企画されることとなった。

2日にまたがるイベントで、新刊の内容を学ぶだけでなく、皆が様々なワークを通して、自分を見つめ直し、輝かしい人生を歩めるようにと設計されたものだった。

 

開催場所は東京。

 

参加費・旅費・宿泊費を含めると10万を超える。

だけど、ここに参加しなければ、僕は一層みんなの輪から外されてしまうって思って参加することにした。

 

「俺はみんなに提供できる夢や目標みたいな素晴らしい話題はないけれど、みんなが居心地の良いと思えるように、自分でできることをしよう」という目標を持って挑んだ。

みんなの話は心を込めて拝聴し、褒めよう。

そうして、みんなからたくさん刺激をもらって、自分が成長できたらいいな。

そして、みんなはみんなで、「村根コネさんに話をすると楽しいな」って思ってくれたら嬉しいな。

そう思っていた。

だから僕は、先生の講演を一番前の席のど真ん中で聴講し、誰よりも率先して笑ったり、泣いたり、手を叩いたり、とにかく良い雰囲気作りに努めた。

そんな僕の雰囲気作りが功を奏したからか分からないが、先生もすごく楽しそうにハイテンションで講演をされていた。

 

「やべぇ、この後の懇親会、きっといいことあるぞ」

僕は、頑張った自分を褒めてあげたかった。

 

懇親会に行く途中の道すがら一人で会場に向かっているAさんを見かけた。

僕は思い切って話しかけた。

 

「Aさん!村根です!!先日は本ありがとうございました!!」

 

Aさんは、「こちらこそありがとうございました」と丁寧に返事をしてくださった。

そして、何気なく僕の出身地の話などをしていると、後ろから「Aさん〜」という声が聞こえた。

会員の一人が僕らを見つけて駆けつけて来た。

僕は一度もお会いしたことがなかった方だった。

 

すると、Aさんは「お〜〜〜!○○ちゃん!!」と、その女性と話をし始めた。

それから、一度も僕に話を振ってくださることはなかったし、その女性に僕を紹介してくれることもなかった。

僕は、気まずかったので、「村根コネと言います。宜しくお願いします。」と挨拶をしたけれど、その女性もそっけない態度だった。

そのまま、二人と離れてしまおうと思ったけれど、それじゃ逃げているだけだと思い、二人の会話で僕が理解できる話題になった時に、笑ってみたり、相槌を打ってみたりした。

 

だけど、結局僕は空気だった。

 

 

懇親会の会場は、熱気に満ちていた。

多分100人以上の参加者がいたと思う。

 

僕は、一番隅っこの席に通された。

僕のテーブルには知らない人しかいなかったが、その内の一人が年商何億というリゾート開発会社の社長だった。

そしてなんと年齢は僕よりも下(笑)

話を聞くと、数週間前に勉強会の会員になったようだ。

 

その人の話は面白く、さっきまでの嫌な気分も吹っ飛んで、僕は刺激を受けまくっていた。

 

そんな最中、先生が僕らのテーブルにやって来た。

僕は胸が高鳴った。

 

「今日、一番前で聞いてくれてたよね。良い雰囲気作ってくれてありがとう。」

 

そんなことを言っていただける気がしていた。

 

 

だけど現実は違った。

テーブルにやって来た先生は、そのリゾート会社社長に

「お前すごい頑張っているな〜。すごいよ。今度マンツーマンで話しようぜ。」と言っって、テーブルから去って言った。

 

入ったばかりの新人でも、実績があれば、懇意にされる。

いくら古株だろうと、facebookでコメント残そうと、頷いたり笑顔でいたりしようと、遠方から高いお金かけて参加しようと、実績がなければ、話しかけてすらもらえない。

 

そのあと、僕の後ろの方で、先生が幹部たちと一緒に「このビール一気しま〜す!!」と叫んで、みんなで「イエ〜イ!!」ってやってる声が聞こえて来た。

 

そこのメンバー、ほとんど関東の人たちじゃん。

今日じゃなくても会えるじゃん。

 

せめて、その一気している時間に、「どこから来たの??遠くからありがとうね。」とか言えなかったのかな??

その人は、本でも講演会でも「目の前の人を大切にする」って何十回も書いたり話したりしている。

本も売れに売れて、ベストセラー作家で、事業もどんどん成功していっている。

 

大切にするのは、目の前の「自分にとって利用価値のある人」ってこと??

俺みたいに何者でもない人間からは、会費を巻き上げてるだけ??

 

そんな気持ちが渦巻いていた。

 

ふと、見ると僕の斜め前に、一人で座っている男性がいた。

さっきまでは、周りに何名かいたはずなのに、他の人たちは、一気の輪の中に参加したようだ。

 

「おいおい、参加者も参加者で、目の前の人を大切とかよりも、自分が楽しけりゃいいのかよ」と思っていた。

 

でも、僕も可哀想だなと思いながらも、ここで話しかけたら、イケてない二人が輪の外で話し込んでいる図が生まれると思い、リゾート開発社長のテーブルから動こうとしなかった。

 

そしたら、酔っ払った先生が戻って来てこういった。

 

「おいおい、お前ら、ここでこうして一人で飲んでいる仲間がいるんだから輪に入れてやれよ!

 俺、こういうの大っ嫌いなんだよ。

 俺がこの会を作ったのは、寂しい人がいないようにするため。

 みんなで一緒に成功するため。

 だから、仲間をのけ者にするようなことはやめてくれ。」

 

僕はドン引きした。

さっきまで、自分が率先して、仲良しのメンバーのところに行って「イエ〜イ」とか言ってたくせに。

 

こういう状況も自分のかっこよさをアピールするためのチャンス!って思ったんかな?って。

 

僕は、その瞬間、会場を後にしてホテルに戻った。

 

4.気づき

 そんなこんながあって、僕は自己啓発の道を歩いて来たことを見つめ直すことになった。

 

まず、今回のことを通して気づいたのは、本や講演で素晴らしいことを語っている自己啓発家も、実際に自分が伝えているハウツーを身につけていないということ。

 

これはよく考えたら当然で、世の中で成功者として語られるような人々は、結構口が悪かったり、仏頂面だったり、業績のためなら解雇したり、決して道徳的ではないもんね。

そんなことに気づけなかった。

 

じゃあ、なんで自己啓発家たちは、あんなに道徳的なことを猛プッシュしてくるんだろうか??

 

僕は僕なりに答えを見つけた。

 

それは、まさに僕のような人間を生み出すためだ。

自己啓発にハマった僕は、ただひたすらに道徳的に生きようとして来た。

人の頼みを断ることとかもできなくなっていた。

 

その結果、僕は高い月会費の勉強会の会員になり、必要以上に本を購入し、セミナーに参加した。

きっと結構な額を支払ったと思う。

 

そして、もう一つは、自分の神輿を担いでくれる仲間を作るため。

自己啓発を教えていると、時に受講者が開花して、一角の者になり成功を収めることがある。

このような受講者は、成功したのは自分の才能・努力ではなく、自己啓発家の教えがあったからだと思っている。

すると、師匠はいつまでも師匠であるがゆえに、成功を収めた受講者は、いつまでも自己啓発家を神輿に担いでくれる。

 その結果、安定した所得を得ることができるのだ。

 

だらだらと書いて来たが、まとめると、自己啓発を学ぶことにより、人間は大きく2つのどちらかに属することになる。

一つは、自分の棘をそぎ落とし、ひたすらに自己啓発家に資金を供給する信者のような存在。

もう一つは、自己啓発を学んだ結果、成功を収めたにも関わらず自己啓発家を持ち上げ続ける存在。

 

まぁ、結局は、どちらに転んでも、自己啓発家にとってはメリットしかないってこと。

そりゃそうか。

人間だもんな。

 

誰だって、自分の私利私欲のために動いているわけで、本当に世のため人のためだったら、あんなに高いセミナーやったりしないよね。

 

でも、僕の人生は実に3分の1もの年月を自己啓発に費やして来た。

自己啓発という宗教を失った今、僕はどうやって日々を生きて行ったら良いのだろう。

 

あれ以来、本屋の自己啓発コーナーに行くだけで、寒気がしてくるし、ストレスがかかる。

 

さてさて、どうしたものやら…。